2019年、猫と生活することになりました

 今年の私の一番のニュースは、猫と暮らし始めたことである。

 人生で初めての経験だったのでどこかに雑感をまとめておきたいなと、ちょろっと文章を書いて放置していたら、Twitterぽっぽアドベント企画が回ってきたので、これだー!と登録しました。腰の重い人間に素晴らしい機会です。主催のはとさん、ありがとうございます!

 

 

 18日目の担当のユズシマといいます。Twitterでは主に映画沼にいます。

 テーマ『私が動かされたもの』ということで、私と野良猫ちゃんの出会いから仲良くなっていく過程、区切りとなった避妊手術までを時系列で書いていきます。この経緯はTwitterでも見せびら……つぶやいていたのですが、明るめ&ドライめを心がけていたので、こちらはややウェット&ポエム気味です。美しく破天荒な小さき生命よ…! そして約12,000字あり、写真いっぱいです。

 なお、避妊手術は中絶手術も兼ねていますので、苦手な方はご注意ください。

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 うちの猫ちゃんです。11月の写真。かわいい、かわいい。宇宙一かわいい!!! シャム猫の特徴を備えているので、人に写真を見せると「ええ? 野良?」と驚かれるのだけど元野良猫の雑種ですね。ちょこちょこいらっしゃるようで、シャムミックスと呼ばれてる。

 それでは出会いからスタートです。

 

3月

 母から「かわいい野良猫を近くで何度か見かけたから餌をやりはじめた」と聞いて、猫の存在を認識する。

 我が家は、緑の豊富な地域に位置している。庭や物置があって隣家までは15メートル以上、敷地が野山と直結しており、ときどき鹿やイタチも見かける。野良猫も珍しくないが、すぐ逃げるのもあって家族みんな無関心という姿勢だ。
 したがって、母の野良猫への餌やりは超絶にめずらしかった。母いわく、昔シャム猫を飼っていたので親しみを感じたのと、2月にうちの近くで野良猫の死体を発見したので罪滅ぼしのような感覚があったらしい。この餌やりにより、猫はうちの周りをテリトリーにした。窓を開け放しているときに家に侵入し、障子を破いて逃げていったこともあったらしいが、私はその場に居合わせなかったのでしばらく幻の猫だった。4月に入ってやっと家の敷地内で見かけたものの、こちらを認知された瞬間に逃げられた。


4月中旬~下旬

 猫は毎朝、決まった場所で餌を食べるようになった。オープンな物置きというか、屋根の下に棚と普段使わないものが置いてあるスペースがあり(差し掛けと呼ぶのかな?)、その暗がりが定位置になった。しかし、警戒心が強すぎる。餌の時間以外も庭先で見かけるようになったが、たいていは作業台の下という人間の手の届かない場所にうずくまって、にゃあにゃあとこちらを威嚇している。餌を食べるときなら警戒心がゆるみそうだと近付いてみたら、鬼の形相で威嚇された。撫でるどころか写真を撮れる距離にもならない。


 この時点で、私を含めた人間たちはうちの猫という感覚はまったく持っていない。向こうは気ままに行動しているため、寝床もトイレの場所も不明で、いつ来なくなるかもわからない。傷がなく目やにがついてなくて毛並みがきれいだったから、飼い猫が通ってくる可能性も考えた。名前をつけたりして愛着を持つと、見かけなくなったときにつらい。
 私自身の動物との生活は、子供のころの雑種の犬のみだ。このわんこはそんなに構ってあげられなかったのだが、十数年生きて虹の橋を渡られた。動物は基本的に好きだし、猫はかわいい。でも、それだけで飼えないことはわかっていた。ときどき猫カフェに行って猫欲を満たすだけで十分で、積極的に一歩を踏み出そうとは思わなかった。我が家がふすまや障子で構成されており室内に上げるには難しかったのもある。でも、これは猫と生活するチャンスだった。手放したくなかった。

 

5月2日

 初めて毛並みをさわった。ちゅ~るを買ったので、朝のエサのあとに差し出したら食いついてきた。撫でる手を嫌がりはしなかったが、格段喜んでいるという態度でもなく「だから何?」という感じだった。人間に撫でられた経験がほとんどなかったんじゃないか。

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 初の猫写真。目つきが鋭い。チューブを食いちぎる勢いで食べていた。ちゅ~るは、猫と仲良くなるために最高に活躍してくれた偉大なおやつ。チューブタイプが使いやすい。

 このちゅ~るタイムを毎朝設けたところ、猫を継続してさわれるようになったし、敷地内で見かける時間も増えていった。よく鳴く猫で、人間を見かけると連続で「なーお、なーお」と鳴く。甘える風でも威嚇する風でもない声音で、呼ばれているのかな?と近付くと逃げていく。隠れてしまう。でも、足に頭をすりつけてくるときもある。猫の気持ち、わからない。シャム猫はよく鳴く種類らしいが、鳴き声を聞くたびに警戒心よりも自我が強さが伝わってきた。アグレッシブ。「我はここにいるんや!」という存在意義の表明のようだった。

 ちなみに当地は京都なので、私が想像する猫の気持ちは関西弁でお送りする。

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 5月4日。こんな顔で鳴く。猫ちゃんかわいいですねえ、というよりケモノだな―と思っていた。最初にカメラを取り出したときは逃げられた。

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 5月5日。日向ぼっこしていても、すぐ作業台の下に逃げこめる位置に陣取っている。比較物がなくてわかりにくいが、だいぶ小さい。彼女は成長期にあまり食べられなかったのだと思う。

 彼女。そう、猫はどこからどう見てもメスであった。ときは春。恋の季節とぼかすことが多いが、要するに発情期に入っている。彼女がでかい野良猫と一緒にいるのを何度か見かけたし、夜には発情期特有の金切り声が聞こえてきた。やばい。このままでは、彼女が庭先で仔猫を産む未来がやってくる。

 ネットで野良猫を飼い猫にする手順や体験談を集めていたが、最初から人懐こい猫だったり仔猫だったり、保護活動をしている手練れの方だったりと、うちに似たケースが出てこない。近くに愛護団体がなく、捕獲器を貸りる手段もない。しかし、もう2ヶ月近くも庭先でごはんをやり続けているのだ。野良猫から、我が家で責任を取るべき猫になっている。動物病院に連れていって、避妊手術を受けてもらわねばならない。私はホームセンターでキャリーケースを買った。

 

5月10日

 最初はキャリーを餌場に置いて慣らそうとしたが、猫は普通に警戒していた。結局、ちゅ~るでおびき寄せてなんとかケースの内部に身体を収めた。大暴れはしなかったが、「何するんや!」と鳴いて不満を訴えている。築いた信頼関係が壊れる音のようだ。

 幸い、動物病院は近かった。田舎ゆえにペットは多く、その病院の評判の良さも聞こえていた。その日もばっちり混雑しており、1時間近い待ち時間では、彼女の声が絶え間なく響く。すごい体力だ。

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 キャリーに入れられた猫。半透明なので、病院では他の患畜に油断なく目をやっていたし、私を見上げては「なんでこんなとこ入れんねん」と鳴いた。

 最終目的は避妊手術だが、病気も普通に心配だった。自分よりも獣医さんたちのほうが野良猫に慣れているだろうから、検査項目等は教えてもらうことにした。耳や尻尾の色から「チョコ」と呼んでいたので、問診票にはそのように書いた。首輪とリードを持っておらずお借りした。キャリーを開けたときに猫がどんな反応をするかわからず、個室に隔離してもらってからケースを開けた。暴れたり引っ掻いたりはしなかったが、逃げようとして診察台から落ちかけ、スタッフに抱きとめられる。私も固定の方法を教えてもらい、うしろ足から採血される。「大きく暴れないようなので、オモテの診察台に行きましょう」と言われ、初めてだっこした。やわらかくて壊れそうだ。
 「保護されたのはいつですか?」と尋ねられて「保護……? いや、庭先で餌をやっているだけで…」とスタッフさんを困らせる返答をする。このときの私にとって、チョコは飼い猫からは遠かった。「うちの」と所有格をつけて呼ぶにはためらいがあり「飼う」という言葉の支配的なニュアンスにも抵抗があった。猫がうちを回遊場所にしているので、ごはんをあげている。でも、それ以外のケアらしきことは何もしていない。だいたい私、彼女のことをほとんど知らない。

 体重2.9キロ、体温39度。猫白血病と猫エイズは陰性、心電図も異常なし。血液検査では腎臓の数値がやや高いが大きな異常はなし。年齢は若そう。「避妊手術まで行き着きたいのですが」と相談すると「ワクチンを2回打って安定してからですねえ。前日に検査して絶食して…」と順番を教えていただき、1度目の三種ワクチンを打ってもらう。次のワクチンを3週間後に、避妊手術を6月中旬に予約する。

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 チョコon診察台。この病院は、数台の診察台で並行して診療していく。他のオーナーさんは自分の患畜に熱心なので、患畜に話しかけるのもぜんぜん普通。
 もう1枚の写真は、黄緑のが猫白血病・猫エイズの判定器具。丸い部分に反応が出ていないので陰性だ。うしろの紙は血液検査結果で、このままもらえるので数値はExcelにまとめている。

 チョコは逃げようという意志は見せるものの、最後まで大暴れはせず、人間側のケガもなかった。鳴き声もだんだん落ち着いてきた。私はとにかく彼女のストレスを無くそうと、自動猫撫で機になっていた。猫初心者なのとほぼ野良猫なのは最初に伝えていたので、検便の必要性や仲良くなる方法なども教えてもらう。獣医さんもスタッフさんもご自身の猫ちゃんの経験から教えてくださったりして安心度が高い。お会計は14,000円。

 

 帰宅して庭でキャリーを開けた瞬間、猫は光の速さで逃げていった。「ワクチンを打ったあとは体調を崩す」などと聞いていたが、超元気だ。人間を本格的に嫌がるのではと危惧していたが、ご褒美おやつに食いつき、翌日のごはんにも現れたのでなんとか信頼関係は保たれた。

 

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 5月12日。うちの裏です。ナチュラルな背景!!! この奥は斜面~谷川になっている。猫は身軽に降りていく。

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 5月15日。その斜面の中腹に座る猫。カメラを構えてにじりよったら逃げられた。雑草を食べているから猫草も食べるかな?と買ってみたら普通に無視された。

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 5月19日。キャリーケースに慣れてもらおうとドライフードをこの中に入れていたが、警戒心はあまり解けなかった。この写真でもめっちゃ睨んでる。左目の上の線状の模様はケガなどではなく毛並み。だんだん消えていった。

 

5月23日

 2度目の病院。ワクチン接種ではなく、チョコの声が枯れたせいである。連続クシャミや目やにの変色もあった。ネットによると風邪だと思われたので、またおやつでおびきよせて母が引っ掻かれながら強引にキャリーに入れた。


 診断も風邪だった。注射とネブライザーを受け、薬を3種類出してもらう。シリンジを使った薬の飲ませ方も教えてもらったが、できる気がせずウェットフードに混ぜることにした。首輪とリードを買ったので、スタッフさんに抑えてもらって装着した。
 しかし、私がもっとも心配していた事柄は風邪ではない。獣医さんにふたたび妊娠の可能性を伝えてエコー検査をしてもらう。すると、モノクロの画像には複数の動いているかたまりが……赤ちゃんだ!!! お、おそかった……もう交尾していた…。猫は交尾=妊娠の生き物である。妊娠させたくないならオス猫と接触させてはいけない。

 だがもう遅い。妊娠1ヶ月と診断される。交尾は4月中下旬だったらしく、懐き度的に、その時期の避妊手術は絶対に無理だったので不可抗力だけど、心がしんどい。獣医さんに「中絶手術は可能なんでしょうか?」と質問すると「本当にそれで良いかよく考えてください」と言われた。立派な獣医さんだ。
 お会計は9,700円。風邪については3日連続で診断に来てと言われたが、猫の態度的にとても連れてこられず処方された薬を飲ませるだけになった。声はすぐ治ったし、くしゃみや目やにもなくなったので、そのまま完治したらしい。

 問題は、お腹の赤ちゃんである。帰って母とも相談したが、一匹だけですでに大変だし彼女自身が野良猫の域なので、とても親子ともども適切に世話をできる自信はない。貰い手を探すアテもない。猫と赤ちゃんには申し訳ないが……という結論になった。

 

 手術のためには、もうひとつ問題があった。彼女は家の中を拒否している。だっこして入れようとしたら大暴れするし、そもそもだっこが嫌いだ。術後は安静にせねばならず早めに室内に慣れてもらわねばならない。
 よってこの日は家の中にトライするぞと、獣医から帰ってきたあとに居間でキャリーを開けてみた。猫はパニックになった。「なーお、なーお」と大声で鳴き、家具のウラに隠れようとした。カーテンをよじのぼって人間から離れようとした。

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 長押の上まで逃げたところ。ごめん、かわいい。


 ここまでシリアスめに書いてきたものの、猫は小さくてまずかわいい。だから何をしていても人間の目線では、真剣度が下がる。人間の余裕と傲慢が出てきてしまう。猫のパニックもコップの中の嵐に見える。
 とはいえ、全身で「こんなわからへんところ、嫌や!」と訴える様子はとてもかわいそうだった。室内に慣れてもらうのがチョコのためとはいえ、長時間耐えさせようとは思えない。窓を開け放して人間も居間から出ていった。しばらくして戻ると、鳴き声も物音もしなくなったので外に出ていったんだろうと思った。


 しかし翌朝、彼女はごはんの時間にあらわれなかった。本格的に嫌われたかなと心配しながら仕事に行ったら、午前10時ごろに母から「見つかった」と連絡が来た。居間の家具の裏にずっと隠れていたらしい。まじか。12時間近く、トイレも水もごはんも我慢して息を潜めていたのか。
 これには、悪いことをしたなあと本気で反省した。あんなに鳴く猫がまったくの無音で縮こまって過ごしていたなんて。すごい我慢力だ。「人間に見つからへんかったら嫌なことされへん」という野良猫としての知恵だろうか。強すぎるほどの彼女の自我を、私たちの行いで歪めて弱めてしまった。

 この件は、いまだに思い出すとつらくなるのだが、猫の中ではどうなんだろうか。数年の猫生では、もっとつらい出来事があったのだろうか。相変わらず、私は彼女のことをほとんど知らない。どこでどうやって生まれたのかもわからないし、彼女にも兄弟や姉妹がいただろうし、どんな方法で生き延びてわが家の近くまで流れてきたかもわからないし、妊娠は初めてじゃない可能性が高いし、産んでいたらその仔猫たちがどうなったのかもわからない。


 だけど、ちゅ~るが大好物なのは知っている。煮干しにはあまり興味がない。おもちゃは怖いから見せただけで逃げる。音に敏感で、生け垣の向こうの犬の散歩にも目を光らせる。猫用トイレを置いても、警戒して迂回して通る。攻撃はしないが興奮すると噛む癖がある。お腹は撫でてほしくないときのほうが多い。人間に存在をアピールするが構ってほしいわけではない。でも、外を歩いたら足に身体をすりつけてくる。

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 5月26日。外のルームランナーにかけたマットの上。外で暮らしているときは戦場育ちの少年兵のように人間の前で眠らなかったのだが、この場所ではくつろいでいた。お腹が大きくなってきてる。


 私が夜遅くに帰宅したら、物音を聞きつけて寝場所の物置の奥からやってくる。「待ってたんやで」と鳴きながら、腹を見せて撫でろとせがむ。声には甘えた調子が混ざっている。帰宅するだけで喜んでくれるの、めちゃくちゃ嬉しい。猫はクールな動物だと聞いていたが、なつかれるとはこういうことか。その全身での喜びに感動しては、おおお、猫で承認要求を満たしてはいけないぞと自戒した。

 とはいえ、実際の私の態度は「あらあらかわいい猫ちゃんが起きてきましたねえ」「今日も一日良い子にしてましたか?」「ミロにゃんは世界一かわいくてかしこい猫ですねえ」「おやつが食べたいでしゅか?」などと話しかけているので、傍から見たら完全な猫バカ……でもさ、猫に耐えられる人類、存在するの?(主語が大きい)

 最初に病院に行ったときの「チョコ」という名前は家族内に定着せず「ミロ」になった。

 

5月29日

 手術日が決定する。ミロに仔猫を産ませてあげられないのだから一刻も早く手術をするべきなので、病院に電話で予約をとった(猫の中絶手術は、人間のような期限はないそうです)。手術予定が混んでいたらしいが、なんとか別の手術のあとに入れてもらった。

 手術の前日にも検査を受けなければならないが、2日連続で病院に連れてこられる自信はゼロで、絶食などのルールも守れそうになかったので、前日からの入院もお願いする。手術中は付き添いが必須で平日だったので、私は午後の休みをとって母と2人で付き添うことにする。

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 5月29日。これもお気に入りの作業台の上。そうそう、首輪はシンプルに青いのを選びました。過重ではずれる仕組みになっているので何度かなくしたが、庭や物置きで見つかったので今も手元にある。

 折りしも換毛期だったので、ブラッシングでコミュニケーションをとっていた。

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 普通のブラシだと怖がりそうで、このグローブ型のブラシを買った。冗談みたいに毛がとれてびっくりしたが、シーズンが終わったらぴたっと止まった。秋冬の換毛期はほとんど抜けなかった。

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 6月2日。玄関前で「撫でてや」と寝そべる。光が当たると、しっぽに縞が入っているのがわかるので、近い血族にトラ系がいるようだ。

 

6月3日

 手術前日の検診。血液検査、心電図、エコー検査が行われる。ミロの変化はペット用アプリに記録しているのだが、この日のメモによると「妊娠により気が立っているのか採血に抵抗」と書いてあった。手術同意書を渡され、翌日は記入済みのこの書類と、術後服にするタオル、おおよその代金を持ってくるよう教えられる。

 検査後は、2階の入院ケージに案内された。入院患畜はミロだけで少しほっとする。宿直者はいないがカメラがあることなどを教えてもらう。彼女はいつも通り鳴いて不満を訴えており、私が去るときは「なんで置いていくねん」という目で見られた。お会計は10,800円。

 

6月4日

 午後、職場から直接、病院に向かう。獣医さんはダブルヘッダー手術の予定だったが、ひとつめの手術が患畜の体調不良で中止になったので、ミロだけになった。安心度が上がる。病院には母が先に着いていて、ミロとスタッフさんと個室にいた。昨夜のごはんを食べなかったそうだが、いつもの鳴きっぷりは健在だった。体重は2.9キロと最初に診察したときと同じ。最後の検査結果も異常なしで手術が決定される。

 この場でさらに多くの注意があり了解がとられ、手術は一大事だ……とこちらが緊張する。ミロも点滴のために前足を毛刈りされるなど、多くの試練が小さな肉体に襲いかかる。そのわりに、スタッフさんには「こんなに暴れない子は珍しい」と褒められる。人間は鎮痛剤の投与までを見守ってお預けする。もしも手術中に何かあったら…とお別れの際は覚悟をしたが、30分ほどで何の問題もなく終了した。

 なお、取り出した赤ちゃんたちについては、病院の方針で飼い主に処理をお願いしていると言われてびっくりした。野山の豊富な田舎だからか? うちは山椒の木の下に埋めました。これはこれで、イタチやカラスが心配なのでだいぶ深く穴を掘って、上にはブロックを乗せました。4匹でした。安らかに眠ってください。

 

 ミロが麻酔から目覚めたタイミングで、入院ケージに案内してもらった。彼女はまだ身体に力が入らず、立ち上がろうとしてはへたりこんでいた。見たことのない動きに心が痛むが、スタッフさんには「普通ですよ」と教えられる。しかし、手術跡(縫合した場所)の保護につけられたエリザベスカラーをめちゃくちゃ嫌がり、ケージの壁に身体をぶつけるようになって取りはずされる。「猫ちゃんからしてみたら、お腹は痛いし閉じ込められているしで不愉快ですから」はい、そうですよね……先が思いやられる…。普通は手術日に家に連れて帰るのだが、適切に面倒をみられる自信がないので、もう一泊入院をお願いした。

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 入院ケージ内でへたりこむミロ。エリザベスカラーをつけていたときに大暴れしたので、背後では水色のペットシーツがぐちゃぐちゃになっている。

 さていよいよ、ミロの安静な過ごし方問題と向き合わねばならない。ネットで一般的な知識や色んな体験談を調べていたが、ミロがどういう行動をとるかわからない。とりあえず私たちはホームセンターでケージを買って、家とつながっている物置きに据えた。購入済みのトイレ(ミロはまったく興味を示さない)も入れて、数日はここで過ごしてもらうことにした。

 

6月5日

 私が休みだったので、午前中にミロを迎えに行く。また元気に鳴いていたが、ごはんはぜんぜん食べていないらしい。エリザベスカラーのかわりにタオルで作った術後服を着せてもらっていた。検査結果は問題なしで薬をもらう。この3日間の入院~手術~検査で、お会計は56,610円。

 帰宅して物置きの中でキャリーを開けて、ミロをケージに入れる。ウェットフードを出すと食べ始めたし水もめっちゃ飲んでた。

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 ケージ内のミロ。右のがトイレ。お腹の縫合場所には大きな絆創膏が貼られていて、その上からこの術後服を着ている。しかし、猫の柔軟性を生かしてこのあと脱いでしまったので、目をつけていた市販の術後服をポチる。エリザベスカラーが耐えられる猫から、術後服が合わない猫まで色々らしい。

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 ケージの上からの写真。高いところが好きな猫用に2つの足場があるが、ミロはケージ自体が大嫌いになった。得意の鳴きっぷりで「ここは嫌や!!!」を訴えて、鳴き声は夜中も続いた。犬ほどの音量ではないとはいえ、人間たちは何度も目を覚ました。これが人間絶許キャットのミュータント能力か……。

  あ、この日は推したちが出ている『X-MEN ダーク・フェニックス』のロサンゼルスプレミアだったんですよ。私も配信やお写真をありがたく楽しみました。推しはジェームズ・マカヴォイさんニコラス・ホルトくんです! まずは『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』を見てね!!! ダイマでした!!!

 

 

6月6日

 ミロの鳴き声に引き寄せられたのか、仔猫が庭にあらわれた。ポケモン世界のようだが現実である。黒白ハチワレで大変小さい。これまた庭で鳴きまくる。成猫なら自分でどうにか生活してくれ方針になるのだが、見捨てる心理的負担が大きく、保護をしてごはんを与えた。

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 手のひらサイズの仔猫ちゃんで、お腹を空かしていたが元気。獣医さんに診てもらったところ生後2ヶ月程度、離乳済み。

 しかし、2匹もの面倒を見られる自信も家族の同意も得られず、藁をも掴む思いで里親募集サイトに掲載したところ、好条件の応募があり、今は里親さんご一家と先住猫ちゃんと幸せに暮らしている。

 

 書くと一瞬であるが、この数日は精神的にしんどかった。片方の猫が鳴くともう片方も鳴くという悪循環に陥ったし、手術後の成猫と仔猫は扱いが違うので、手間は1.2ではなく、1+1の2になる。里親応募があって喜んだあとも、里親詐欺ではと疑わなければならず神経をすり減らした。でも私の心配はまったくの杞憂で、先方は普通に熱心に2匹目の猫ちゃんがほしい方でした。世界は優しいーーーー!!!!

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 無印のソファの上の仔猫ちゃん。部屋をあちこち探検し人間にも積極的になつこうとする大物であった。よく動くから写真が難しかった。今はこの家のことなど忘れているだろう。

 

 話は戻るが、ケージ2日目のミロはさらに荒れた。夜からごはんを食べなくなった。水皿を引っ繰り返し、ケージ内の足場マットを噛んではがし、トイレもあまり使わなかった。人間絶許度が進化しとる。

 なお、ミロと仔猫ちゃんを対面させたところ、ミロが聞いたことのない声で威嚇したので引き離しました。大人気ない…。

 

6月7日

 術後検診を受ける。異常なし。届いた術後服を着せてもらい、獣医さんから外に出す許可をもらう。ふわーーーー鳴き声から解放された…!!!! いや、一番しんどかったのはミロだが、人間の心労も取り払われた…!! 

  そして、ミロは人間絶許キャット完全体となって自由を満喫……と思いきや、不思議なことに人間へのなつき度が上がった。家に入れても暴れず、畳の上でくつろぎ、窓を開けても出ていかなかった。

 ミロの中でこの事態はどう処理されているのだろうか。もしかしたら、ひどい虐待(手術とか)から助けてくれた人間たち、になったのだろうか。それって我々の自作自演みたいじゃないですか? そんなことで良いのか、ミロ!!! でも、こっちだって悪気があって痛い思いをさせたり閉じ込めたり家に入れたりしたんじゃないんですよ。彼女が人間に馴染んでくださるなら、それにこしたことがない。しかし………

猫の気持ち、まったくわからん!!!!
(これは、この後も何度となく叫んだりつぶやいたりするセリフである。仲良くなっても所詮は人間と猫なのだ。理解には遠く及ばない……いや人間側の問題もあると思うので、もっと精進します…)

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 購入した術後服。頭を通して、背中でマジックテープを止めるタイプ。排泄箇所がしっかり空いているのでトイレでも汚れない。

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 これは別の日だけど、着せたらこんな感じ。

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 毛づくろいはしにくそうで、服の上から舐めたりもあった。

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  家の中でくつろぐミロ。最初のパニックを思うと本当に尊い。この、無印の「人をダメにするソファ」が大好き。室内だと安心して寝てくれたし、人間と一緒に寝るようにもなる。

 

6月18日

 手術からぴったり2週間経ち、抜糸になった。ミロのなつき度アップにより、病院へ連れていくのも過去最高に楽だ。

 診察台では、ずっと貼られていた絆創膏を剥がされ、私も初めて縫合跡を見た。青い縫い糸を、ハサミでプチプチと切られていく。毛が生えるのが早いと褒めてもらう。ミロは「この台におると嫌なことされるんや。知ってるんやで」と学習したらしく、検査の待ち時間はキャリー内に逃げ込んでいた。血液検査で大きな異常なしも確認される。

 獣医さんに「次は2回目ワクチンですよね」と言ったら「今日打てますよ」という話になったので、そのままお願いする。抵抗が減って通院は楽になったが、そもそも病院に来たくない。お会計は、5,820円。

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 抜糸が終わったミロ。毛刈りのあとの地肌がピンクだ。縫合痕のアップ写真。グロくはないが一応ワンクッション。

 その後もよく鳴いて元気です。

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「はよ外で遊ぼうや」と私を催促している。

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 ケージはその後、自分の居場所だと認識してくれた。くつろいでいる。


 ここで、私が猫と生活するに至った記録はいったん終了とする。猫初心者なのもあり、ひやひやの1ヶ月半だった。私の場合、動かされることとは、自分の中に新たなリソースが作られることである。検索履歴が猫だらけになり、朝ごはんをあげるために早起きするようになり、ミロと戯れることが新たな時間の過ごし方になった。

 半年以上もの時間が経ったので、現在は彼女をうちの猫だと思えるが、「飼う」という言葉には抵抗がある。まあ浸透しているから使っちゃうけどね。ミロは、妹のようにも子供のようにもか弱い生き物にもまったく理解できないケモノにも癒やされる存在にも天使にも見えるし、これらすべてが人間の勝手な傲慢と感傷にも思える。私は、彼女の自我を尊重し、意志を受信しながら適切な世話を選んでいくしかない。

  ミロとの出会いによって動かされた生活は2019年より先もずっと続くし、この幸せな時間ができるだけ長くあってほしいと願うのだが、私より先に死んでしまう生き物なのだから、責任を持って最後まで彼女の幸いを支えていきたい。

 

  アドベントカレンダーという機会をいただいて書いた記事であるが、猫との生活を考えている人・悩んでいる人の参考になればとも思っているので、以下にいくつか補足やその後の変化を載せる。見せびらかしたいので、ミロの写真も載せる。

 

購入したおもちゃやごはん

 楽天ルームにクリップしてレビューを書いている。

room.rakuten.co.jp

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 猫ベッドも購入したのだが、数回入ったり乗ったたりしたら飽きるの繰り返しで、今はお蔵入り。猫あるある!

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 夜の寝場所は紆余曲折あったが、今は私か母と寝ている。早朝に起こされるが許される。なぜならかわいいから…!!!!

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 手術から時間が経ったので、シャンプーを敢行。水が大嫌いなので大鳴きして逃げようとしたし、終わったあとも必死で毛づくろいしていた。

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 シャンプーで毛がさらに白くなった。伝説の奥義「猫を吸う」も可能になった。

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 おもちゃで遊んでくれるようになった。心配していた襖などへのひっかきはほぼ無し。爪とぎを使ってくれている。 だっこは相変わらず嫌いで、膝にも乗らない。

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 首に下げている丸いプレートは迷子札で、「ペットのおうち」に登録して、もらいました。仔猫ちゃんの里親募集もこちらからしました。

www.pet-home.jp

 

6月~12月までに直面した問題たち

  • トイレ覚えてくれない問題

 猫砂を鉱物系に変え、成功時に盛大に褒めちぎり、ちゅ~るをあげることで覚えてくれた。8月以降は室内粗相なしです!!! 天才だ!!!!!!

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 室内用トイレを使用中。

  • 耳の裏に湿疹ができた問題

 食物アレルギーではと診断されてフードをあれこれ試し、穀物不使用フードにしたら消えたが、穀物を使ってるフードを混ぜても湿疹が出ないので、別の原因だったのかもしれない。

  • ごはん食べない問題

 フードを試している時期にほとんど食べなくなった。新しいごはんを出すと食べたのでワガママではと思われる。今はなんでも食べるぜキャットに戻った。

  • 腎臓の数値が高い問題

 思えば、最初の血液検査から腎臓周りの数値が高かった。尿検査は異常なしで脱水症状もないので今すぐやばいという感じではないようだが、引き続き検査で進行をチェックする。猫の腎臓病は治らないので、今後の覚悟を決めて闘病記などを読んでいる。若い猫ちゃんでも、血液検査・尿検査はしたほうがいいです…!!

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 首輪は4本に増えました。天才だから何を着けてもかわいい。

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  自我の強さは相変わらずで、いつも「庭のボスは我や」という顔をしている。

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 冬毛でもっふもふ。耳やしっぽのポイントカラーは黒くなった。体重は避妊手術後に増えて、3.6~3.7キロに。ウエストにくびれもあるのでちょうど良いと思う。

 これら大量の写真は、Instagramに載せている。せっかくだから英語でやるかーと思ったのに、ロクな文章が綴れないのは見ないふりをしてほしい。

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 本日、12月18日のミロ。2019年も残りわずかです。皆様、良いお年を!!